「夫婦漫才」とは、なかなか素敵なタイトルである。
この世にどれ程の数の夫婦がいるのかは知らないが、全ての夫婦の会話は、第三者からみれば漫才のようなものだと、僕は思う。ただ、どんな夫婦にも、長年二人で築き上げた会話の間(ま)があり、空気感がある。それは誰にもまねのできない二人だけのオリジナル作品である。
さて、その夫婦の会話を仕事にしてしまったのが、この物語の主人公、伸子と伸郎である。伸郎の「俺はなあ、漫才やってる時、伸子が楽しそうで、伸子が笑ろうてる顔が好きやったんや。それだけで、漫才やってきただけなんや」というセリフがある。合い方の笑顔みたさに、あまり好きでもない漫才をやってきた伸郎、なんだか気持ちは分かる。
人が人に惚れる時、その要因の95パーセントは相手の笑顔であると僕は信じている。笑顔みたさに・・・それは、舞台を作る者と、観客との間にも同じようなことがいえる。
お客様の笑顔は、僕にとって天使のようであり、その天使の笑顔を一度でも見たら、ある魔法にかかってしまう。もっと楽しく、もっと面白く・・・。
東宝現代劇の演出は初めてですが、お客様の天使の笑顔みたさで、果敢に挑戦しています。景と景のつなぎかたにも遊びあり、もちろん観客参加あり、「こまいぬ」のデビュー曲「とりあえず、ビール!」も幕開きで唄われています。今まで芸術座に縁のなかった方達にも、充分お楽しみ戴けると思いますので是非お出かけ下さい。笑って笑って笑って、ホロリとして帰っていただければ幸いです。
中村龍史
2002.12.26更新