チャップリンは無声映画にこだわった。それは言葉の壁を超え、全世界の人々に楽しんでもらいたいからで、僕もそこにこだわって作品を創ってきた。
又、チャップリンは、それまでの喜劇映画になかった要素を取り入れた。一般に、「涙」と「社会風刺」と云われているが、僕はそれに加え、「新しい音楽の使い方」だと思っている。俳優の動作と音楽が見事に合っていて、各シーンの面白さを倍増させた。
以前、日本でも人気の高いリンゼイケンプダンスカンパニーを率いる、リンゼイケンプ氏と食事をしたときの事、彼は僕に「君のヒーローは誰だい?」と聞いてきた。野球少年だった僕は即、「長島茂雄というとても有名な野球選手です」と答えた。
彼は「僕のヒーローはチャップリンだよ」と云いながら、空を掴みそれを何度も上着の内ポケットに入れる仕草をして見せた。きっと、チャップリンからいろいろなものを頂いているんだなと、僕は解釈した。
そこで、「僕もチャップリンは大好きです」と答え、両方の手で空を掴み、左右の内ポケットに入れた。すると彼は負けじとズボンのポケットに入れ始め、僕も負けじと胸のポケットに空を掴み入れた。おかげで二人のポケットは、チャップリンで一杯になった。
今、世界中でチャップリンが見直されている。CGやSFXもない時代、スタントマンも使わず数々のアクションをこなし、人が人の力で出来るものなら何でも演じ、人の力が伝わる作品を作り上げた。それがチャップリンの凄さであり、アナログの素晴らしさでもある。
今年4年目を迎えた筋肉(マッスル)ミュージカルも又、人の力を最大限に引き出したミュージカルである。
日頃、デジタルなものに疲れている皆さん、筋肉(マッスル)ミュージカルで、人としての力を取り戻して下さい。
そういう僕自身が、演出家としての人間力を、いつも試されているような気がしているのですが・・・・・。
中村龍史
2005.07.13更新